大規模修繕工事の前の建物点検について

ご相談事例

日頃、マンション管理組合様より大規模修繕工事のお問い合わせをいただく中で、皆様から必ずご質問頂くことの中に、『工事前の建物点検を行った方が良いですか?』というものです。もちろん答えはYESでありますが、建物の規模や築年数によっても状況が違いますので、少し補足の説明が必要です。

 

まず、前知識として考慮して頂きたいことが建物点検にも無料と有償で2種類あります。

無料のものは、足場等の仮設物を設置しないで目視や触診などを行いながら建物を隅々まで点検し、特徴的な劣化部位などを写真に収め、成果物として報告書としてまとめたものを提出するというものです。工事の見積もりを作成する際には、現地確認をしますので同時にこの点検作業も行えてしまうわけです。業者に見積もりを依頼すればここまでは無償でやってもらえる場合がほとんどです。

 

次に有償の点検ですが、前述の無償点検の内容に加えて破壊検査を行い、更に大規模修繕工事の仕様書を作成する場合です。破壊検査というのは、外壁タイルや塗装やシーリングなどの防水を剥がして、その劣化度合いを測るものです。

仕様書の作成というのは、建物の構造や使用している仕上げ材の種類やその数量を現地調査や竣工図面などから調査して、適切な改修内容や具体的な施工数量(外壁の面積など)をまとめた書類を作成するものです。この書類があれば他業者にこの書類を渡せば同じ内容の見積もりを取得することができ、見積もりを数社から取得した場合でも比較検討がしやすくなります。

 

まずこの破壊検査についてですが、築年数が12年前後で、第1回目の大規模修繕を実施する時期のマンションの場合ですと有償点検の破壊検査は不要のように思います。破壊検査の中に外壁タイルの付着力を調べる試験があるのですが、これは建物の新築時に施工品質を調べるために、一度貼ったタイルを剥がして調べるものですが、新築の場合はそれと同時にタイル面全体の打診検査も実施します。しかし改修時だとタイルの付着力を調べても足場がありませんので、全体的に浮きを調べることができません。そうなりますと全体的な劣化具合は把握できませんので、あくまでも目安のひとつです。タイルの浮きの原因は単純な経年劣化以外にもあり、それはタイルを張ってある面のコンクリートの品質が悪かったり、ひび割れが入りやすい構造だったり、タイルの貼り方の問題だったりと場所によって違いますので、一番信頼性があり確実な調査は足場を設置しての全体的な打診調査となります。

 

また塗膜の付着力を調べる調査についてはですが、これの意味は通常の修繕方法で外壁の塗装面の改修を行う場合は、現状の塗膜の上に新しい塗膜を塗り重ねる方法で行いますが、現状の塗膜の付着力が低下していると塗り重ねを行った時に剥がれなどの不具合が発生する場合がありますので、現状の塗膜を全体的に剥がして塗装を行う必要があり、工事内容と費用が大きく変わります。しかしこれを行うのは一般的には3回目以降の大規模修繕工事以降がほとんでありますので、1回目の大規模修繕工事の際に塗膜の付着力を調べてもやはり目安のひとつに過ぎず、ここで得られた試験結果が有効に利用されることはほとんどありません。

 

またあるマンションでは、業者から提出された点検報告書の内容で、当然場所ごとに劣化症状が違うのですが、提案された大規模修繕工事の見積書はフルスペックの内容となっており、何のための点検だったのかと疑問に思われた住人様もいらっしゃったようです。

やはり建物のよって、それぞれその構造や劣化症状、また工事に掛けられる予算などはバラバラだと思います。それを型にはめたように通り一辺倒の工事内容では、本来であればもう少し長持ちする物まで直してしまうことになり非常にもったいないと思います。

点検を実施する際には、その目的と意義を認識して行うことが合理的な工事を行う上で必要なのではないかと思います。